昔メソッド、今はインプロヴィゼーションか

投稿者: | 2019/11/21

演技の指導者たちを、映像で見ることはむずかしい。だが、その姿をみることで、その演技に対する真摯な取り組みを垣間見ることはできる。

アクターズ・スタジオWリー・ストラスバーグW(1901-1982)は、『ゴッドファーザー PART IIW』(1974)に出たことで、晩年、何本もの映画に出演した。『ゴッドファーザー PART II』では、大物の黒幕を、ソファーに横になる、独特の姿勢で表現する。これは紋切り型へのアンチだ。

リー・ストラスバーグ 『ゴッドファーザー PART II』(1974)

リー・ストラスバーグ 『ゴッドファーザー PART II』(1974)

ネイバーフッド・プレイハウスWサンフォード・マイズナー(1905–1997)は、『ER緊急救命室W』(1995)にゲストとして出演し、瀕死の老人として、われわれの前に姿をさらす。晩年は声帯切除の手術を受け、特殊なマイクを首に押し当てて話していたという、話せない人物そのままを、映像に残した。

サンフォード・マイズナー『ER』Season1-18話「彼我の狭間で」

サンフォード・マイズナー『ER』Season1-18話「彼我の狭間で」

モスクワ芸術座Wからヨーロッパ、そしてアメリカへ渡った、マイケル・チェーホフW(1891-1955)は、アルフレッド・ヒッチコックWの作品で、イングリッド・バーグマンWと共演している。この『白い恐怖W』(1945)を観ることで、ルドルフ・シュタイナーWの影響を受けたという、身体性による演技訓練を指導していた、マイケル・チェーホフ本人の演技を見ることができる。

マイケル・チェーホフ 『白い恐怖』(1945)

マイケル・チェーホフ 『白い恐怖』(1945)

」による演技を破るために、「スタニスラフスキー・システムW」が始まり、1950年代からのハリウッド映画は「Method actingメソッド演技法W)」とともにあったと思うのだが、今は、偶発性や多様性が求められ、よりドキュメンタリーに近い、「即興W即興劇W」(Improvisational theatre)の能力が、重要になってきたように思う。

このところ、「インプロ」「シアターゲーム」「アイスブレイクW」といったタイトルのついた本を、乱読していた。

即興の原点は、「コンパス・プレイヤーズ」(1955-1958)というシカゴの劇団にあり、ここに私が好きなマイク・ニコルズW(1931-2014)やエレイン・メイW(1932-)が参加していたことを初めて知った。

『マイキー&ニッキー』 エレイン・メイ(1976)

『マイキー&ニッキー』 エレイン・メイ(1976)

エレイン・メイは、私の大好きな『トッツィーW』のシナリオに関わり、まさに即興としか言えないズルズル感とリアリティを持った『マイキー&ニッキー/裏切りのメロディW』を監督した。この主演であるジョン・カサヴェテスW(1929-1989)は、即興演出でつくられた数々のインディペンデント映画を残した。

『こわれゆく女』 ジョン・カサヴェテス(1974)

『こわれゆく女』 ジョン・カサヴェテス(1974)

『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』 ジョン・カサヴェテス(1976)

『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』 ジョン・カサヴェテス(1976)

『オープニング・ナイト』 ジョン・カサヴェテス(1978)

『オープニング・ナイト』 ジョン・カサヴェテス(1978)

その後、「セカンド・シティW」(1959-)が生まれる。アラン・アーキンWハロルド・ライミスWエリック・ロスWジョン・ベルーシWジョン・キャンディWビル・マーレイWダン・エイクロイドWユージン・レヴィWマイク・マイヤーズWスティーヴ・カレルWアダム・マッケイティナ・フェイW、と出身者を並べただけでもスゴイ。

ここに、『サタデー・ナイト・ライブW(SNL)』(1975-)の、エディ・マーフィWロブ・シュナイダーWアダム・サンドラーWウィル・フェレルWを加えれば、いかに「インプロブ(improv)」が映画に貢献しているかがわかる。

映画では、マイク・リーW(イギリス/1943-)の作品群が「即興でつくられている」として知られている。

『秘密と嘘』 マイク・リー(1996)

『秘密と嘘』 マイク・リー(1996)

『キャリア・ガールズ』 マイク・リー(1997)

『キャリア・ガールズ』 マイク・リー(1997)

『ヴェラ・ドレイク』 マイク・リー(2004)

『ヴェラ・ドレイク』 マイク・リー(2004)

しかし、マイク・リーの「即興」は、人物の造形をリアルにしてゆくために使われていて、役者の出してきたものをすくい上げてドラマに構築してゆく、「役を生きる」ための方法だと言える。「即興」を繰り返して精度を高めてゆくのだ。

それに対し、このコメディ出身者たちの「即興」は、シナリオに書かれていないものを試し、無意識から何か生まれて来ないかの実験のための演出法だ。「即興」は繰り返すことはできず、それが日々生きている日常と同じリアリティを生みだす。

今回、アダム・マッケイWのDVDやBlu-rayを大人買いしてしまった。特典映像に、メイキングや削除シーン・NG集が満載なのだ。まさに「即興」でいろいろな表現が試されてゆく。

アダム・マッケイ 『俺たちニュースキャスター』(2004)

アダム・マッケイ 『俺たちニュースキャスター』(2004)

アダム・マッケイ 『タラデガ・ナイト』(2006)

アダム・マッケイ 『タラデガ・ナイト』(2006)

アダム・マッケイ 『俺たちステップ・ブラザース』(2008)

アダム・マッケイ 『俺たちステップ・ブラザース』(2008)

アダム・マッケイ 『アザー・ガイズ』(2010)

アダム・マッケイ 『アザー・ガイズ』(2010)

アダム・マッケイ 『俺たちニュースキャスター 史上最低!? の視聴率バトル in ニューヨーク』(2013)

アダム・マッケイ 『俺たちニュースキャスター 史上最低!? の視聴率バトル in ニューヨーク』(2013)

アダム・マッケイ 『マネー・ショート』(2015)

アダム・マッケイ 『マネー・ショート』(2015)

アダム・マッケイ 『バイス』(2018)

アダム・マッケイ 『バイス』(2018)

インプロヴィゼーション」のルールは、魅力的だ。「失敗をどんどんしよう」「上手くやろうとするな」 つまり、緊張をなくし、自然体を目指すのだ。それは信じられる演技につながり、役の人生を“ふつう”に生きることにつながる。それは自由であり、人を肯定し、悪も悲しみも受け入れる。