Hills Like White Elephants 日本語訳比較
アクターズ・スタジオのリー・ストラスバーグが書いた『メソードへの道』に、役づくりのレッスンに使う教材として、アーネスト・ヘミングウェイの『Hills Like White Elephants』が出てくる。まずは文庫で読んでみたのだが、台詞がしっくりこない。図書館に行って別の翻訳を読んでみたら、いろいろありすぎて……。元の英語が、一番、腑に落ちる。(そりゃ、オリジナルだから当然なのだが)

翻訳者に戯曲との関わりがあるかで、大きく異なるように感じる。話し言葉として、発話しにくいものも多数ある。これって、他の翻訳者と同じ訳にしてはいけないという、ルールでもあるのでしょうか? 各翻訳を並べてみます。タイトルが全部違うなんて!!
【1】大久保康雄『白い象のような山々』1953 新潮文庫
【2】龍口直太郎『白い象のような丘』1953/1969 角川文庫
【3】瀧川元男『白象のような山』1955/1972 三笠書房
【4】谷口陸男『白象に似た山々』1957 研究社出版/1972 岩波文庫
【5】西川正身『白象に似た山なみ』1964 中央公論社
【6】沼澤洽治『白い象に似た山々』1977 集英社
【7】高見浩『白い象のような山並み』1995 新潮文庫
What should we drink?
【1】何を飲もうかしら?
【2】ねえ、何を飲もうかしら?
【3】なにを飲みましょうか
【4】飲み物、何にします?
【5】何を飲むの?
【6】何飲んだらいいかしら?
【7】何を飲む?
They look like white elephants./I’ve never seen one./No, you wouldn’t have.
【1】あの山は、まるで白い象みたいね/白い象なんて見たことがないな/そうね、見たことないでしょうね
【2】向こうの丘、白い象みたいね/白い象なんて、見たことないよ/そりゃあ、ごらんになろうと思ったってね
【3】あの山脈はまるで白い象のようね/僕は白い象などみたこたあない/そうね、ごらんになってなかったでしょうね
【4】あそこの山、まるで白い象みたい/そんなやつ、見たことがないぜ/そうね、ごらんになったことないでしょうね
【5】あの山、まるで白い象みたいね/白い象なんて、ぼくはまだ一度も見たことがないんだ/そうね、ないでしょうね
【6】あの山、白い象みたい/見たことないからな、そんなもの/でしょうね、あなたは
【7】あの山並み、白い象みたい/白い象なんて、一度も見たことないな/ええ、ないでしょうね、あなたは
Wasn’t that bright?
【1】ちょっと気のきいた言い方じゃない?
【2】なかなか頭がいいでしょ?
【3】気のきいた言いかたじゃなくって
【4】うまい言いかたじゃない?
【5】うまいこと、言ったじゃない?
【6】なかなか名文句でしょ?
【7】あれは冴えてたでしょう?
I don’t care about me./Well, I care about you.
【1】あたし、自分のことなんか、どうでもいいのよ/ぼくは、どうでもよくはないよ
【2】あたしは、自分のことなんかどうでもいいと言ってるのよ/だが、ぼくにはどうでもよくないんだな
【3】私、自分はどうでもいいのよ/僕はお前がどうなってもいいとは思わないぜ
【4】あたしは自分のことなど、どうでもいいの/ところが、ぼくは君がどうなったってよかないぜ
【5】あたし、この自分なんかどうなったってかまわないのよ/ところが、ぼくのほうは、かまわなくはないんだ
【6】自分がどうなろうと、私、かまわないの/僕はかまってる
【7】あたしなんか、どうなったっていいのよ/いや、よくないよ
Would you please please please please please please please stop talking?
【1】どうか、どうか、どうか、どうか、おしゃべりをやめてちょうだい
【2】ごしょうだから、おしゃべりをやめてちょうだい。ねえ、お願い、お願い、お願い!
【3】どうか、どうか、どうか、どうか、どうか、どうか、どうか、話をやめてくださらないこと
【4】お願い、どうかどうかどうかどうかどうかどうか、おしゃべりやめてくださらない?
【5】じゃ、お願い──どうかどうかどうかどうかどうかどうかどうか、おしゃべりをやめて
【6】頼むから、ね、頼むから、頼むから、黙ってちょうだい
【7】どうかおねがい、おねがい、おねがい、おねがい、おねがい、おねがいだから、黙ってくれない?
I’ll scream.
【1】大きな声を出すわよ
【2】大きな声を出すわよ
【3】わめくわよ
【4】大声を出すわよ
【5】かなきり声を立てるわよ
【6】声立てるわよ、私
【7】思いっきり叫ぶわよ、あたし
I feel fine. There’s nothing wrong with me. I feel fine.
【1】すっきりしたわ。もうなんともないわ。いい気分よ。
【2】ええ、いい気分よ。あたし、別にどうもしちゃいないわ。いい気分よ
【3】すてきよ。ちっとも悪いとこなどないわ。晴ればれした気持ちよ
【4】気分はすてきよ。どこも悪いとこなんかないのよ。いい気持ち
【5】すてきよ。悪いとこなんか、どこもなくってよ。すてきだわ、今の気分
【6】大丈夫よ。私、どこも悪いとこなどないもの。大丈夫
【7】いいわよ。べつにどうってことないんですもの。いい気分よ、あたし

この作品はいろいろな解釈が可能だ。設定によって、いろいろな演じ方ができる。『メソードへの道』では、ドロシー・パーカーの『素敵なあなた(You Were Perfectly Fine)』も教材として紹介されている。両作品とも、どうつくり込んでゆくか、その試行錯誤のための題材として、良い原作だと思う。もう1本、チェーホフの『熊』も載っているのだが、少し長いし、この2作は登場人物が2人なので、より深く考察できそうだ。