『銀河鉄道999』は『約束』の焼き直し
『宇宙戦艦ヤマト』から始まったアニメブームは、麻上洋子から始まる声優ブーム、そしてコロンビアレコードのアニメ歌手たち(ささきいさお・水木一郎・堀江美都子)を巻き込み、拡大していった。乱立した紙メディアでは徳間書店の『アニメージュ』が最大手で、これが後に『風の谷のナウシカ』を生む。ショップから派生した『アニメック』はその連載のなかで、<オタク>という言葉を定着させる。東京ムービー新社では出崎統による『宝島』『ベルサイユのバラ』、日本アニメーションでは宮崎駿による『未来少年コナン』『赤毛のアン』がつくられ、ブームが市場を拡大し、品質を向上させていった。
そんななかで老舗の東映動画が仕掛けたのが『銀河鉄道999』(監督:りんたろう)だ。
テーマソングを歌うのが、ゴダイゴ。特撮ファンには、「西遊記シリーズ」の主題歌を唄ったグループとして認知されており、英語の歌詞を担当した奈良橋陽子は、NHKの『基礎英語』『ラジオ英会話』に対抗して旺文社がスポンサードした『百万人の英語』のパーソナリティとして知られていた。
原作は松本零士。東映動画は、『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『どうぶつ宝島』から10年近く長篇を作っておらず、社の威信を賭けた、鳴り物入りのプロジェクトだった。
劇場版第1作を、特別なものにしているのは、脚本家と音楽である。 脚本は石森史郎。音楽は青木望。
この二人が、作品の情感を盛り上げ、メロドラマとしてのこの映画を突出した作品に押し上げている。……というのが、当時の認識だったのだが。
『約束』(監督:斎藤耕一)を観て驚いた。
同んなじやンけ〜ぇ!!
主人公は、妙な人なつっこさがある、ファニーフェイスの若者:萩原健一。
照れ屋なのに積極的で、繊細なのに大胆。
星野鉄郎は、原作の漫画やTVアニメよりも設定年齢が引き上げられた。
よくよく見ると、ファニーフェイスという点で、表情や顔の崩しかたなど、共通点が多い。
『石森史郎シナリオ集 「再会 パタゴに虹の燃える日」』のコラムには、こうある。
ある日、突然、東映動画の高見義雄プロデューサーから電話がかかって来た。 お願いしたい事があるのでお目にかかりたい、今すぐに私のところへ伺いたい。(漫画原作を)東映動画で長編アニメ化する事になり、今日の製作会議でシナリオは石森史郎に依頼すると決定したから、執筆して欲しいというのである。 何故、私にと問い返した。 会議では私が青春ドラマを書いているという点が評価され、話題になったとの事だった。
ヒロインは過去を背負った、謎の女。
どちらも「母」がキーワードとして出てくる。
坂本典隆のキャメラが、40歳間近の岸惠子の年齢を、残酷に写し出す。
オードリー・ヘプバーンの声というよりは、『青い体験』の年上の女である、池田昌子によるメーテル。
どちらもメロドラマとして、音楽が重要な役割をし、甘いメロディが、観客をあおる。『約束』の音楽は、宮川泰。
ストーリーの類似点はこうだ。
- 少年は歳上の女に一目惚れをする。
- 少年も女も孤独を抱えている。
- 列車の中でコミュニケーションを重ねる。
- 歳上の女は大きな秘密を隠している。
- 女は自分の過去に、墓参りする。
- 中盤の事件で、少年は自分の目的を自覚する。
- 女は、自分のしなければならないことと、少年への愛で葛藤する。
- 少年は女に、一緒に住んでくれないかと言う。
- 女は愛を受け入れはするが、絶対的な別れが起こる。
そして、愛を語るシーンは、同じ脚本家だけに、ひじょうに似通っている。
銀河鉄道999
◯ プラットホーム
ゆっくりと煙を吐き出し、停車している999号。
じっとたたずみ眼を見交わしている鉄郎とメーテル。
鉄郎「……どうしても行くのか」
メーテル「……エエ、私は時の流れの中を旅してきた女……でも昔の体に戻る為には……」
鉄郎「じゃ、やっぱり冥王星へ……俺、待ってるよ……」
何も云わず、じっと鉄郎をみつめるメーテル。
鉄郎「……もう……逢えないのか……」
メーテル「(頷く)いつか私が帰ってきても、あなたは私に気がつかないでしょう……」
唇をかみしめてメーテルを見つめる鉄郎に顔を近づけるメーテル。そっと唇に唇を重ねる。
じっと動かない二人。……
999号の発車のブザーが鳴り響く。
ひとり列車に乗るメーテル。
じっとメーテルを見続ける鉄郎。
メーテル「私は貴方の思い出の中にだけいる女……あなたは少年の日の心の中にいた青春の幻影……」
列車の扉が閉まる。
ゆっくりと列車が動き出す。
鉄郎も列車を追って歩き出す。
窓ガラス越しに鉄郎に微笑みかけるメーテル。
鉄郎、笑顔で応えるがその顔は泣き顔。
ホームの端で立尽す鉄郎。
すべり出て行く列車。
鉄郎「……メーテル……」
鉄郎、猛然と線路に飛び降り、列車を追って走り出す。
約束
◯ 地下道(夜)
梢から洩れる月光を浴びて……
視線がからみ合う螢子と中原。
どうしようもないもどかしさだけが中原をかりたてた。
中原「逃げよう!な、一緒に逃げよう……今なら大丈夫だ。な、逃げよう!」
螢子「(強く見返し)本気?」
中原「当り前だ。誰も知らない町へ行って二人だけで暮らそう……俺、結婚なんてんじゃなくたっていいんだ……俺、あんたの弟だってなんだっていい……俺、一生懸命働くからよう……な!」
中原は泣きながら訴えた。
螢子は中原の優しさがたまらなく嬉しかった。
螢子もそうしたい……しかし、出来なかった。
二人はただキラキラする眼と眼で瞶め合った。
静寂だったが、燃えるような時が流れていった。
螢子の唇が小さく動いた。
螢子「……ありがとう……」
斎藤耕一・石森史郎・坂本典隆による映画は、次の『旅の重さ』につづく。
主演は、高橋洋子。これを全面的にリスペクトしたのが、今関あきよし監督で、高橋洋子の役を、三留まゆみが演じている。 主題歌として、吉田拓郎の「今日までそして明日から」が使われ、この歌は昭和を象徴する曲として、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』でも使われた。
映画は、世代を越えてつながってゆく。
『銀河鉄道999』ナレーションは『吹けば飛ぶよな男だが』をイメージか?
(以下、2013/4/16に追記)
『吹けば飛ぶよな男だが』(脚本:森崎東・山田洋次)を観ていたら、ラストシーンで「さらば…○○、さらば…○○」と連呼される。パクったとは言わないけど、『銀河鉄道999』は狙って使ったのだと思う。比較のために、並記します。(文字づらで見ると、そうでもないけど、溜めをつくって謡い上げる感じが、ソックリなんですよ)
『吹けば飛ぶよな男だが』(脚本:森崎東・山田洋次/1968/弁士:小沢昭一)
弁士「かくて新しき希望をば目指して若者は船出せんとするのである。再び帰る日は何時の日か、さらば故国よ、懐しの人々よ、いざ行け若者よ、万里の波濤をのりこえて、恐るる勿れ若者よ、万国の労働者は君が同胞なり。さらば若者よ、いざさらば」
『銀河鉄道999』(脚本:石森史郎/1979/ナレーター:城達也)
N「今、万感の想いを込めて汽笛が鳴る。今万感の想いを込めて汽車が行く……ひとつの旅は終り、また新しい旅立ちが始まる……さらばメーテル、さらば銀河鉄道999……さらば少年の日よ……」
『約束』を観たときの私の驚きは、自明のことだったようです。『PLUS MADHOUSE 04 りんたろう』(キネマ旬報社/2009年12月28日初版)に、りんたろうさんの発言が載っていました。
脚本については、僕の希望を聞いてもらった。それで石森史郎さんになったんだ。なぜ、石森さんにお願いしたかというと、松竹で岸恵子とショーケン(萩原健一)がやった「約束」(’72年)という映画があって、これがもの凄くいいんだよ。メーテルと鉄郎の関係を描くのに、あの感性が欲しかったんだ。それで直接、石森さんに会ってお願いした。石森さんは、あの頃、アニメーションは全然やっていなかったから、「え、僕がアニメでいいの?」と言われたよ。「いいんです。あの感性でやってください」とお願いした。