『エヴァ』と『早春スケッチブック』

シナリオシナリオライター,TV,アニメーション

主人公は、意気地のない若者。妹がイジメにあっているのに助けることもせず、逆に胸ぐらをつかまれてしまう情けないヤツだ。

そこに、美貌のオンナが現れる。
オンナは主人公に興味があり、主人公を迎えに来た。

オンナは車で、主人公を、会わせたい相手のもとへと連れてゆく……。

これが『早春スケッチブック』(フジテレビ/1983)の冒頭だ。
主人公は、鶴見辰吾。使者として登場する魅力的なオンナは、樋口可南子

連れてゆかれた先は、社会から孤立した空間。
そこは、主人公の父親(山崎努)の住む場所で、主人公の前に君臨した巨大な父親は、主人公の価値観を揺るがし、主人公の生き方を問いただす。『早春スケッチブック』の脚本は、山田太一

山田太一は、『岸辺のアルバム』(TBS)、『獅子の時代』(NHK大河)、『想い出づくり』(TBS)と大作を連打するなか、『終りに見た街』(1982)がタイムスリップ物として、SFファンにも注目を浴びていた。

倉本聰が『前略おふくろ様』を書き、向田邦子が『阿修羅のごとく』『あ・うん』を書き、TVドラマは、シナリオライターが注目される時代だった。

とくに山崎努が演じる、目の見えなくなったカメラマンが主人公に向かって放つ 「おまえはありきたりだ!!」 という台詞は、ありきたりの人生を始めつつある、主人公と同世代の視聴者(それは私だ!)には強烈に響き、記憶に残るTVドラマとなった。

そんな私と同世代のアニメ監督が、10年後につくったドラマは、こう始まる。

主人公はイジイジし、自分を守ることに精一杯で、傷ついた少女が目の前で苦しんでいるにもかかわらず、助けることができない、弱い少年。

そんな主人公の前に、エッチでキレイな女性が現れ、主人公を迎えに来たと言う。主人公は、碇シンジ。魅惑の女は、葛城ミサト

ミサトがスポーツカーで、主人公を未知なる場所へと連れてゆく。

そこには主人公の父(碇ゲンドウ)がいて、愛よりも人類のための犠牲を、血のつながりを科学に利用する使命を押しつけ、主人公を孤独と不安へと追い込む。

新世紀エヴァンゲリオン』の作者は、庵野秀明

大阪芸術大学を経て、「DAICON FILM」で、伝説のオープニングアニメに参加した彼に、『早春スケッチブック』の、おまえはありきたりだ!!が響いたかどうかは判らない。

『帰ってきたウルトラマン』庵野秀明
『帰ってきたウルトラマン』庵野秀明

ハッキリしているのは、彼はズッーっと、ありきたりなモノなど、一度もつくったことがないということだ。常に、ありきたりで無いモノを、つくり続けている。

DAICON版『帰ってきたウルトラマン』での彼が、ありきたりに納まらない彼を象徴している。
彼は不自然なまでに壊し、観客を裏切り、違うところへ行こうとする。

早春スケッチブック』も『新世紀エヴァンゲリオン』も、観客の価値観を壊そうと、挑んでくる。
視聴者の常識を揺する。
『早春スケッチブック』は家族回帰の話だし、『新世紀エヴァンゲリオン』は家族を求める話。
どちらも、安らぎの場を求めようとして、近くにいるのに一番遠い、家族という残酷な関係を描く。

自立し、他人に依存せずに自分を確かに持つことでしか、正常なコミュニケーションは育めないと、少年を突き放す。