2011年映画ベスト 『モテキ』新時代
先日、『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』を観た。多分、今年これを越える日本映画は現れない。そりゃそうだ。撮影量は常にマルチカメラで撮っていて、1カメが基本の貧乏プロジェクトとは違う。撮影期間だって、1年の長期だ (撮影に1ヶ月以上かけられる日本映画がどれだけあることか?)。キャスト費だって、トップアイドルを1年間拘束しているわけで、ドラマで換算したらすごいことに。武道館での総選挙やじゃんけん大会、西武ドームでのコンサートと、このイベントの製作費自体で、軽く1本の日本映画の予算を越えるだろう。アイドルとして生きることの苦しみと喜びを、初めて!! 強烈に描いた傑作。 2012年日本映画ベストはこの作品で動かない。
で、『モテキ』だ。この作品もマルチカメラで撮っている。画の素材量が沢山あり、それは美しい絵やダイナミックな映像を見せるためではなく、ひたすら、主人公たちの感情を追うために撮られている。ナゼか……? テレビにはめずらしく、ディレクターがシナリオを書いている!!
映画では、監督は脚本が書けることが必須で、修業の一部だ。しかし、テレビドラマでは分業だった。それを破って、とうとうテレビも脚本&監督の時代が始まった。もう既存の日本映画は勝てない。コアなファンを狙い作家主義を重視する1980年代以降の日本映画は、大衆性や娯楽性を追求してきたテレビのしたたかさに太刀打ちできない。新しい世代は、テレビと映画を隔てる意識もなく、映像作品として、純粋に伝えたいこと = 表現したいことを突きつめてゆく。新時代が既に動いている。
2011年の映画ベスト
(日本映画BEST1+外国映画BEST5)
1) モテキ(大根仁)
ずっと、TVを映画より下に見ていた自分に気づき、猛反省しました。とうとうTVが、映画の息の根を止める、TVほうが面白く巧い時代がきました。(TVもディレクターがシナリオを書く!)
1) 恋とニュースのつくり方(ロジャー・ミッシェル)
計算された脚本にうなった。表と裏の使い方が巧い。
2) ヒア アフター(クリント・イーストウッド)
自分を肯定できない霊能力者が、手をつなぐことのできるパートナーの女性を見つける。それだけの話であるがゆえに、強烈なフックが冒頭にある。言葉にしない感情の描写がすばらしい。
3) マネーボール(ベネット・ミラー)
インディペンデントとかモノづくりとか、硬直した社会でも良いのだけれど、挑戦する勇気を与えてくれる。革新するには、別のところから現れた人が、既成のものを壊すしかない。必要なのは革命の気概だ。
4) アジョシ(イ・ジョンボム)
私的に初めて熱狂した韓国映画。何度も観た。作家性とエンターテイメントを両立した、コアな映画ファンも一般人も満足させる、こころざしの高い商品。嫉妬した。
5) スーパー!(ジェームズ・ガン)
私にとって、ひじょうに心地よい作品だった。『タクシードライバー』や『キック・アス』ではなく、これがリアルだと思う。主人公の愛する女性が「サラ」なのも、『悪魔の毒々モンスター』(トロマ・エンターテインメント)へのリスペクトで嬉しい。
今まで、特定の好きな脚本家はいなかった。それが今は「小國英雄」と言える。これが去年の一番の収穫だった。【参照】⇒阿片戦争はホントに小國英雄かぁ?
さらに最近、指針にする映画人が2人できた。脚本家のレスリー・ディクソンと、監督のドナルド・ペトリだ。
レスリー・ディクソン(Leslie Dixon)は、コメディを得意とし、やりすぎのスラップスティックとヒューマンな視点をドラマに注入する。リメイク物や脚色物の名手と目されており、整理しすぎず、少しズレたクライマックスが魅力。代表作は『潮風のいたずら』『ペイ・フォワード 可能の王国』『フォーチュン・クッキー』『ヘアスプレー』。人生を別の視点からながめるプロットに感動。
ドナルド・ペトリ(Donald Petrie)は、役者の自由な演技をとり入れる演出で、器用なプログラムピクチャーの名手。代表作は『ミスティック・ピザ』『デンジャラス・ビューティー』『ムースポート』『ラッキー・ガール』。IMDBによると、母はプロデューサー、父は映画監督ということで、役者経験もあり、集団制作をどう楽しく進めてゆくかを大切にしているように感じる。物語・役者・撮影のバランスがいい。
去年は発見の多い年だった。……見ていないものが多すぎてがくぜんとする。
日本映画は終わっていると思うが、まだ始まることはできる。